2026年時点の国産AIとは何を指すのか

国産AIという言葉は、文脈によって指すものがかなり揺れます。議論を噛み合わせるために、この記事では次のように整理して使います。

  • 国産AI:国内企業が主体となって開発・運用する基盤モデル。開発拠点と責任の所在が国内にあることが条件になります。
  • ソブリンAI:モデルだけでなく、計算資源やデータの置き場所まで自国のインフラで完結させるという考え方。技術的な話ではなく、主権と統制の話に近いものです。
  • フルスクラッチ開発:事前学習の段階からモデルを自前で構築する方式。設計の自由度は高いものの、計算資源と時間の負担が大きくなります。
  • 海外モデルベースの追加学習:公開されている海外の基盤モデルを起点に、日本語データや業務データで継続学習・微調整を施す方式。到達点までの距離は短い反面、土台の設計は借り物になります。

この4つを混ぜて語ると、どのモデルの何を評価しているのか分からなくなります。

先に断っておくべきこと:「国産」の多くは海外モデルが土台

この記事で最も注意していただきたい点を、先に書いておきます。

2026年時点で「国産」と呼ばれているモデルの多くは、海外のオープンウェイトモデルを土台にした追加学習です。フルスクラッチを明言しているのは、確認できた範囲ではPreferred NetworksとSB Intuitionsに限られます。

たとえば東京科学大学のSwallowシリーズはOpenAIのGPT-OSSやAlibabaのQwen3がベースです。リコーのモデルもQwen系、ELYZAはLlamaや香港大の拡散モデルDreamがベース、Sakana AIの日本語特化モデル「Namazu」はMoonshot AIのKimi K2.6がベースです。ある調査では、日本企業の主要LLM10個のうち6個がDeepSeekまたはQwenベースだと指摘されています。

これは批判ではありません。合理的な選択です。ただし「国産モデルが海外モデルに勝った」という表現を見たとき、その国産モデルの土台が海外のオープンウェイトであるケースが多いことは知っておくべきです。この分野の記事で最も多い事実誤認がここに集中しています。

GENIACが底上げしてきた国内の開発基盤

国策としての中心にあるのが、経済産業省のGENIAC(Generative AI Accelerator Challenge)です。国内の基盤モデル開発力を底上げし、企業の創意工夫を促すことを目的に立ち上げられました(GENIAC 経済産業省 公式サイト)。

2026年6月4日に公表された第4期では、全27件が採択されています。内訳はAI基盤モデル開発16件、ロボット基盤モデル2件、データのAI-Ready化9件。この採択リストが、2026年の国産AI地図を把握する最良の一次資料です。

注目すべきは、対象が言語モデルの外へ大きく広がっていることです。採択案件には、手術映像を理解するモデル、がん微小環境をシミュレートする「Virtual Cell」、建設領域の基盤モデル、災害検知LLM、ドローン特化のマルチモーダルモデルなどが並びます。テキストの外側、さらには現実世界の物理的な動作を扱う領域まで、政策の射程が伸びているということです。

結果として、2026年の論点は研究段階の性能比べから実運用段階の適合性へと移りました。動くモデルが複数存在する状況では、問いは「作れるか」ではなく「どの場面で誰の責任のもとに使えるか」に変わります。

誰が何を作っているのか:国産AI企業マップ

国産AI企業マップ:主要各社のモデルと特化領域

抽象的な議論を続けても実感が湧きません。2026年9月時点で、どの企業がどんなモデルを作っているのかを具体的に見ていきます。

企業 主なモデル名 開発方式 狙っている領域
Sakana AI Fugu/Marlin/Namazu モデル群のオーケストレーション+海外モデルへの事後学習 自律リサーチ、コーディング、日本語商習慣、世界モデル
Preferred Networks PLaMo 3.0 Prime/PLaMo Lite/PLaMo-Fin-Prime フルスクラッチ 金融、エッジ・車載、翻訳、マテリアル、ロボット
楽天 Rakuten AI 3.0 海外オープンモデルベース 日本語汎用、オンデバイス
SB Intuitions Sarashina3(mini/nano/guard/embedding/rerank) フルスクラッチ データ主権、安全性、製造業の柔軟物操作
NTT tsuzumi 2 自社開発(詳細非公表) 図表入り日本語ビジネス文書、1GPU軽量運用、電力業務
富士通 Takane 32B/PHOTON(新アーキテクチャ) 自社開発 行政文書、システム開発自動化、製造
NEC cotomi v3/cotomi Act 自社開発(詳細非公表) 行政、業務自動化エージェント
リコー Qwen3.6-Ricoh-27B/Qwen3.5-Ricoh-9B Qwen系への追加学習 製造の設計検証、金融・保険の文書分析、公共
ELYZA(KDDI傘下) Llama-3.1-ELYZA-JP-70B/ELYZA-Diffusion Llama・Dream系への追加学習 業務アプリ生成、審査業務
Stockmark Stockmark-2-100B/Stockmark-2-VL-100B 自社開発+Qwen系追加学習 製造業の暗黙知、社内文書、ハルシネーション抑制
Turing DriveHeron(VLA、約20億パラメータ) 自社開発 カメラのみの自動運転、フィジカル基盤モデル
AI inside PolySphere-4 自社開発 日本語ドキュメント処理、推論ハードウェア

※2026年9月時点。各社公式発表にもとづく。パラメータ数は多くの企業が非公表に転じているため、公表分のみ記載しています。

Sakana AI:モデルを作らずモデル群を束ねる

国産AIの中で最も異色の立ち位置にいるのがSakana AIです。2026年は「研究会社からプロダクト会社へ」転換した年になりました。

同社が2026年6月22日に発表した「Sakana Fugu」は、単一のモデルではありません。複数の専門エージェントをオーケストレーションするOpenAI互換APIです。自前で巨大モデルを作るのではなく、他社のオープンウェイトモデル群を束ねて最適に割り振るという発想です。

2026年9月11日に更新された「Fugu Max」は、入力100万トークンあたり2ドル・出力6ドルという価格設定で、6つのベンチマークで合計トップを取ったと発表されています。海外の主要モデル比で40〜60%安いという主張です。「自前モデルを作らない」という第三の道は、国内では他に見当たりません。

研究面では、AI Scientistの論文が2026年3月26日にNature誌へ掲載されました。AI Scientist-v2が生成した論文が査読を通過した世界初の事例とされています。2026年9月には「誤差逆伝播なしの1000層学習」という成果も公開しています。

そして2026年9月24日、同社はJürgen Schmidhuber氏をChief Scientific Advisorに招聘しました。LSTMの生みの親であり、現CEOのDavid Ha氏と2018年に「World Models」を共著した研究者です。新設のRSI Lab(Recursive Self-Improvement Lab)を率い、テーマはAgent-Native World Models──行動の物理的帰結を実行前にシミュレートするモデルです。

つまりSakana AIは、言語モデルからフィジカルAIへ明確に舵を切りました。同社は2026年8月に「再帰的自己改善の次のフロンティアはフィジカルAI」「日本はロボティクス革命を起こした」と表明しています。企業価値は4,000億円超(2025年11月のシリーズB時点)とされ、GENIAC第4期では1兆パラメータ級の自律型エージェント基盤モデルを開発中です。

楽天:7,000億パラメータをApache 2.0で公開

規模で目を引くのが楽天です。2026年3月17日に提供開始したRakuten AI 3.0は、約7,000億パラメータのMoE(Mixture of Experts)アーキテクチャで、国内最大規模を謳っています。

特筆すべきは公開形態です。Hugging Faceで無償ダウンロードでき、ライセンスはApache 2.0。7,000億パラメータ級のモデルを完全オープンウェイトで出すのは、国内では異例です。日本語ベンチマークではJamC-QA 76.9、MMLU-ProX日本語 71.7、MATH-100日本語 86.9という数値を公表しています。

開発方式はフルスクラッチではなく、オープンソースコミュニティのモデルをベースに楽天独自のバイリンガルデータで構築したものです。

なお「ECや金融の自社データをどう活かしているか」は、公式発表では開示されていません。「楽天独自の高品質なバイリンガルデータ」という表現に留まっており、購買データや金融データの具体的な使い方は明らかにされていません。この点を推測で埋めた解説記事が散見されますが、一次情報では確認できません。

2026年7月29日には日本HPと組み、PC向けの「Rakuten AI for Desktop」の提供を開始しています。オンデバイス方向への展開です。

Preferred Networks:半導体まで自社という唯一の垂直統合

国内で唯一、チップからモデルまで自社で持っているのがPreferred Networksです。

2026年6月22日にリリースされたPLaMo 3.0 Primeは、フルスクラッチ開発を明言しています。コンテキスト長は従来の64Kから256Kへ拡張され、推論モデルと非推論モデルの2本立て構成です。NICT(情報通信研究機構)との共同研究による事前学習モデルを土台に、PFNが独自にフラッグシップ化しました。

そして同社は自社開発のAIプロセッサMN-Coreを持っています。2026年6月のInterop Tokyoでは、MN-Core 2の水冷サーバ上で8B版のPLaMoを動かす展示を行いました。第3世代のMN-Core Lシリーズは2027年提供予定とされています。

ラインナップの広さも特徴です。商用フラッグシップのPrime、エッジ向け小型モデルのLite(車載・ロボット・製造装置・PC向け)、日英特化のPLaMo翻訳、そして金融機関向けオンプレミスのPLaMo-Fin-Prime。PLaMo翻訳は2025年12月2日からデジタル庁で既に本提供されています。

アーキテクチャ研究で成果が出始めた

2026年のもうひとつの変化は、国産のアーキテクチャ研究が国際会議レベルの成果を出し始めたことです。

  • 富士通のPHOTON(2026年6月24日発表):トークン単位ではなく意味単位を階層的に処理する新アーキテクチャ。1.2Bモデルでマルチクエリスループットが従来Transformer比で最大475倍という報告です(精度は若干低下とのトレードオフ)。ACL 2026で発表されました。商用投入時期は未定です。
  • ELYZAの拡散言語モデル(2026年1月16日公開):自己回帰ではなく、段階的なノイズ除去でテキストを生成する7Bモデル。高速化と省電力を狙ったものです。
  • Sakana AIの逆伝播なし学習(2026年9月14日):誤差逆伝播を使わずに1000層のネットワークを学習させる手法。

いずれも「海外モデルを追いかける」のとは違う方向の動きです。

政府調達が示す実力の物差し:ガバメントAI源内

ガバメントAI源内の選定結果と運用規模

国産AIの実力を語るとき、ベンチマークのスコアよりも先に見るべき材料があります。政府が実際にどの技術を選び、どの規模で運用しているかという記録です。

公募から有償調達までの時系列

  • 2025年12月2日:デジタル庁が行政向けAI基盤「ガバメントAI」での活用を想定した国産LLMの公募を開始。日本語の語彙や表現、行政文書特有の記述様式への対応が狙いとされました
  • 2026年1月30日:応募受付が締め切られる
  • 2026年3月6日:公募結果が発表され、15件の応募から7モデルが選定
  • 2026年8月:さくらのクラウド上で環境構築
  • 2026年9〜11月:試験評価
  • 2027年度:有償での政府調達先を決める流れ。国産LLMの追加公募が2026年11月に予定されているとの報道もあります

選定された7モデル

開発元 モデル
NTTデータ tsuzumi 2
NEC cotomi v3
Preferred Networks PLaMo 2.0 Prime
富士通 Takane 32B
ソフトバンク Sarashina2 mini
KDDI・ELYZA(共同) Llama-3.1-ELYZA-JP-70B
カスタマークラウド CC Gov-LLM

約18万人という運用規模の意味

試用の舞台となる生成AI基盤「源内」は、外局を含む全39府省庁機関の職員約18万人へアカウントが順次付与されています。2026年7月時点ではAWSのNova Lite、AnthropicのClaude Haiku 4.5・Sonnet 4.6・Opus 4.8の4モデルから職員が選択して利用できる状態でした。ここに国産LLMの試行利用が加わった構図です。

実験環境ではなく、日常業務が走る場所に置かれている点が重要です。

そして評価の着眼点が日本語適合と行政文書への対応に置かれていることは、汎用的な言語能力だけが物差しではないことを意味します。この視点は、生成AIの出力が利用環境によって差を生む問題とも通じており、生成AIのAPIと検索結果の差はなぜ生まれるかで整理した実装依存の考え方が参考になります。

世界から見た現在地:3つの格差を数字で見る

国産AIと海外勢の3つの格差:ベンチマーク・計算資源・投資額

ここからが本題です。国産AIは世界から見てどのレベルにいるのか。都合の良い数字だけを並べても意味がないので、まず厳しい現実から見ていきます。

格差①:汎用ベンチマークのトップ50に国産モデルは1つもない

日本語LLMの総合評価として参照されるNejumi Leaderboard 4を2026年9月時点で集計すると、トップ50に国産モデルは1つも入っていません。

順位 モデル 開発元 スコア
1 claude-opus-5 Anthropic 0.8720
3 Qwen3.8-2.4T-A95B Alibaba 0.8598
6 gpt-5.6-sol OpenAI 0.8499
9 gemini-3.1-pro-preview Google 0.8430
圏外 GPT-OSS-Swallow-120B-RL 東京科学大学 0.6914
圏外 llm-jp-4-33b-thinking 国立情報学研究所 0.6760

※Nejumi Leaderboard 4を2026年9月1日時点で集計した二次分析にもとづく。

トップの0.872に対し、国産系の最高は0.69前後。42モデルが0.80を超えている中で、国産は0.70に届いていません。しかも0.7111で小型モデル部門の首位に立っているのはNVIDIAが開発したNemotron Nano 9B Japaneseです。

さらにLMArena(旧Chatbot Arena)には、国産モデルが1つも載っていません。2026年9月版の掲載56モデルはAnthropic、OpenAI、Google、Alibaba、DeepSeek、Moonshot、xAI、Meta、Mistral等で構成されており、Sakana AI、ELYZA、Preferred Networks、NTT、富士通、SB Intuitionsのいずれも不在です。

格差②:計算資源はオーダーで30分の1

性能差の背後にあるのは資源の差です。

Epoch AIの集計によれば、世界のAI計算能力はH100換算で1,500万基超、消費電力は10GWを超えています。一方日本国内のGPU向け電力は2025年末時点で約300MW。国内のAI向けデータセンター受電容量が1.1GWで、そのうちGPU向けが約300MWという内訳です。

世界10GW超に対して日本0.3GW。オーダーで約30分の1です。

増加ペースにも差があります。2030年までの増加分は、日本が約15TWh(+80%)に対して米国が約240TWh(+130%)。増分で16倍の開きがあります。日本のデータセンターは世界のデータセンター電力消費の約2%にとどまります。

もうひとつ構造的な数字があります。世界の学習データに占める日本語の比率は約3.6%です。

格差③:民間投資は米国の100分の1規模

Stanford HAIのAI Indexによる2024年の民間AI投資額は、米国1,091億ドル、中国93億ドル、英国45億ドルに対し、日本は約9億ドルで世界14位です。2013年から2024年の累計では米国4,700億ドル超に対し日本約60億ドル。年間で約121倍、累計で約78倍の差になります。

政府側の投資については、2025年12月に官民で5年1兆円規模の支援方針が報じられています。ただし比較のために並べておくと、ソフトバンクグループ1社がOpenAIへ投じた追加投資は最大400億ドル(約6兆円)です。

つまり日本1社の海外AI企業への投資額が、国産AI育成の官民支援総額を大きく上回っています。資本は国産化ではなく海外モデルへ向かっているのが実態です。

政府自身が「後塵を拝する」と書いている

この現状について、最も踏み込んだ評価を下しているのは政府自身です。2025年12月23日に閣議決定された人工知能基本計画には、こう書かれています。

AI関連の開発・投資についても、主要国はもちろん経済規模が小さい国にも後塵を拝するようになり、出遅れが年々顕著になっている

これは批判者の言葉ではなく、閣議決定文書の記述です。汎用性能の一点勝負で国産が正面から競り合う構図は、現実的ではありません。

汎用では勝てない。ではどこで勝つのか

ここまでが現実です。では国産AIに勝ち目がないのかというと、そうではありません。ただし勝てる場所は限定されており、その範囲を正確に把握しておく必要があります。

順序立てて整理します。

ステップ1:汎用性能では勝てない理由を構造で理解する

性能差を技術力の問題として語ると打ち手を誤ります。実際には投入できる資源の構造差です。

  • 計算資源:大規模な事前学習には膨大なGPU時間が必要で、確保できる計算基盤の規模がそのままモデルサイズと学習量の上限になります
  • 開発資金:学習は一度で終わらず、失敗も含めた反復が前提になるため、継続的に資金を投じられるかが探索の幅を決めます
  • 更新サイクル:海外の主要モデルは短い間隔で世代交代が進み、追いついた頃には次の版が出ているという速度差が生じます

この3点が積み重なる以上、汎用最高性能を目標に据えた戦略は最初から破綻しています。

ステップ2:勝てている領域を3つに絞り込む

一次データを確認すると、国産が優位に立てているのは次の3つに限られます。逆に言えば、この3つは実際に勝てています。

①日本語・日本文化に特化したベンチマーク

東京大学松尾・岩澤研究室が開発した医療特化モデルは、2025年の医師国家試験ベンチマークで93.3%を記録し、RAGと多数決を組み合わせた条件では約98%に達しています。国立情報学研究所のLLM-jp-4(32B-A3B MoE、総320億・活性38億パラメータ)は、日本語MT-Benchで7.82を記録し、GPT-4oの7.29を上回っています。

ただしここには重要な注意が必要です。この種の「GPT-4o超え」は、比較対象が2024年5月のモデルであるケースが大半です。2026年のフロンティアモデル(Claude Opus 5、GPT-5.6、Gemini 3.1)との比較ではありません。記事や提案書で使う際は「GPT-4o比」と明記すべきです。

②行政・規制・データ主権という非性能要件

ここが最も参入障壁が高い領域です。源内の選定で重視されたのは、機密を扱えるセキュリティ、日本語や日本の文書様式への適合、第三者が確認できる形の評価結果でした。性能そのものではなく、契約条件・データの所在・運用体制が選定軸になっています。

金融庁が2026年3月に公表したAIディスカッションペーパー(第1.1版)のような規制文書が整備されつつあることも、この領域の障壁を高めています。

③コスト

見落とされがちですが、価格差は実務上の決め手になります。100万トークンあたりの入力単価は、PLaMo 3.0 Primeが60円程度に対し、海外フロンティアモデルは5ドル前後。約12分の1です。

Sakana AIのFugu Maxも、海外主要モデル比で40〜60%安い価格設定を打ち出しています。

ステップ3:「特化すれば勝てる」を無条件に信じない

ここで冷静になるべき一次データがあります。

NEDO事業として東京大学・東京科学大学が開発した医療特化モデルは、模擬専門医試験(RAG併用)で最大90.8%を記録しました。立派な数字です。しかし同じ試験での商用モデルのスコアは、Claude Opus 4.5が91.4%、GPT-5.2が91.2%、Gemini 3 Pro Previewが93.3%です。

東京科学大学の発表自体が「比較対象とした主要な商用LLM(91.4%)に迫る水準に到達しました」と表現しています。迫っているが、上回っていません。

つまり「専門領域に特化すれば海外の汎用モデルを超えられる」という主張は、少なくとも医療領域の一次データでは支持されていません。「特化すれば勝てる」を無条件に書くと、この一次データと矛盾します。

ステップ4:反対側の論点も押さえる

さらに、国産AI推進に対する批判的な見解も知っておくべきです。興味深いのは、その指摘を国産AI企業の当事者自身が行っている点です。

Sakana AIの石井順也氏は、完全な国産化について「この4つのレイヤーを100%賄うことは不可能で、合理的でもない」と述べ、続けてこう指摘しています。

オープンモデルを使っていても、事後学習技術によって出力をコントロールできるのであれば、自国の利益や価値観を損なわない

これは「海外モデルのファインチューニングで足りるのではないか」という論点そのものです。

一方でさくらインターネットの田中邦裕社長は、米国がClaudeの提供を一時停止した事例を挙げて「『そんなこと起こるわけない』と言われていたことが、全部起こっている」と述べ、さらに「一番重要なのは(入力データがモデルの)学習されるかどうか。データが日本にあったとしても、学習に使われてしまったら意味がない」と指摘しています。

両者の共通結論は、完全国産化は非現実的であり、「各レイヤーで誰が主権を握るかを意識的に選択すべき」というものです。

加えて、企業のAI導入現場では特化モデルの採用より「汎用モデル+RAG」の組み合わせが大半を占めているという指摘もあります。Gartnerは2027年までに企業の生成AIモデルの50%超が特定業界・タスクに特化すると予測していますが(2023年は約1%)、現時点では移行途上です。

整理:勝ち筋は「性能」ではなく「条件」にある

以上を踏まえると、国産AIの勝ち筋はこう整理できます。

軸 勝てるか 根拠
汎用性能 勝てない Nejumi 4トップ50圏外、LMArena不掲載、計算資源30分の1
専門領域の性能 迫るが上回らない 医療特化90.8% vs 商用91.4〜93.3%
日本語・日本文化 勝てる 日本語MT-Bench、JamC-QA等の日本語特化指標で優位
データ主権・規制対応 構造的に勝てる 源内の選定軸が性能以外。契約・運用条件が参入障壁
コスト 勝てる 入力単価で約12分の1の事例

狙うべきは生成AIの汎用市場ではなく、セグメントを切った先にある市場──この見立ては、一次データに照らして妥当です。ただしそのセグメントは「専門分野の性能」ではなく、「日本語」「規制」「コスト」という条件の掛け算で切り出されるものだと理解すべきです。

フィジカルAI:日本が置いた最大の賭け

そしてもうひとつ、日本が本命と位置づけている領域があります。フィジカルAIです。

フィジカルAIとは何か

NVIDIAの定義では、フィジカルAIは「自律機械が現実の物理世界を知覚・理解・推論し、複雑な行動を実行・統括できるようにする」ものです。生成AIとの違いは明示的に説明されています。GPT系は言語と抽象概念に強いものの、空間関係と3D世界の物理法則を理解しません。フィジカルAIは、現行の生成AIを空間関係と物理挙動の理解で拡張するものと位置づけられています。

技術的な中核はVLA(Vision-Language-Action)モデルとワールド基盤モデル(World Foundation Model)です。

PwC Japanは各国の強みをこう整理しています。米国は基盤モデル開発、中国はセンサ技術と人型ロボットの量産、欧州は人協調制御、そして日本は精密マニピュレーションと安全性に関わるセンシング。

政策:2040年に20兆円市場の獲得を狙う

2026年3月26日に取りまとめられたAIロボティクス戦略では、多用途ロボット市場が2040年に約60兆円規模になるとの見通しのもと、日本が世界シェア30%超・20兆円市場の獲得を目標に掲げています。

日本の強みとして明記されているのは、世界トップの産業用ロボット産業、部品・素材・装置のサプライチェーン、現場実装で蓄積した運用ノウハウ、品質重視の設計思想、そして高品質な現場データです。KPIとして国産ロボット基盤モデルのβ版を2027年6月頃に公開予定としています。

そして2026年6月30日、経済産業省はFRONTiaプロジェクト(AIロボット・フィジカルAIを見据えたマルチモーダル基盤モデル開発事業)の実施者を公表しました。実施するのはNoetra株式会社と産業技術総合研究所です。

Noetraは2026年1月に設立された新会社で、中核出資はソニーグループ、ソフトバンク、NEC、本田技研工業の4社、出資企業は計44社に及びます。計算基盤としてNVIDIA Rubin GPU約27,500基・Vera CPU約13,750基・140MW規模を計画しており、建設開始2027年4月、稼働2028年6月の予定です。

開発ロードマップは3段階です。2026〜2027年に日本語理解・論理推論の言語基盤モデル、2028年に言語・画像・動画・音声を統合したオムニモーダルモデル、2030年に空間認識を持つ「実世界ネイティブAI」。

支援規模は初年度約3,873億円、2030年までの総額約1兆円規模と報じられています(二次情報)。

なお2026年7月16日には、経産省・NEDO主催でフィジカルAI政策に関する対外発信イベントが開催されました。高市早苗首相のビデオメッセージ、赤澤亮正経産大臣、NVIDIAのジェンスン・フアンCEO、東大の松尾豊教授らが登壇し、約400名が参加しています。同席でジェンスン・フアン氏は「日本は近代製造業を切り開いた。今、次の産業革命を導くAIファクトリーを構築している」と述べました。

GENIACロボット基盤モデル枠:採択16社

具体的な担い手を見ると、政策の中身がよく分かります。

第1弾(2026年5月14日発表・自動運転2件)

  • Turing:カメラのみでE2E自動運転を行う「Heron」/VLAモデル
  • ロボトラック:大型トラック向けレベル4。マルチモーダル世界モデルとDiffusion Planner

第2弾(2026年9月採択公表・多用途ロボット13件)

企業 モデル・技術名 内容
Telexistence Ghost(小売)/Phantom(物流) 垂直統合型の商用AIロボティクス
ugo VTLA(Vision-Tactile-Language-Action) セミヒューマノイドによる製造組立
Preferred Networks
+Preferred Robotics
PLaMo-SemGround 屋内移動ロボット向け環境高度理解
アトム VLA+世界モデル 双腕2足ヒューマノイド。NSKと提携
Highlanders Kepler ヒューマノイド+四足。三菱自動車と工場向け共同開発
FastLabel VLA+ロコマニピュレーション 四足歩行の巡回点検。九州電力の石炭火力で検証
メルカリ Camera Aware VLA 越境EC物流の検品・出品自動化
SB Intuitions (非公表) 1万時間規模のデータで製造業の柔軟物操作
XNOVA フィジカルAI基盤モデル 映像・力覚・工具電流・言語を統合、工具技能作業
日立建機 (非公表) 建機の稼働データ×AI

ほかにMW、Muso Action、KDDIが採択されています。

企業側の動き:トヨタの40万台と日立の「元年」宣言

民間側の動きも、規模が一段変わりました。

トヨタは2026年9月18日、AIパートナーロボット「ELEY」を初公開しました。約50kgの車輪式で2本指グリッパーを持ち、2028年以降に世界60工場へ計40万台を投入、年間約1兆円を投資する計画です。中核技術はToyota Research InstituteのLarge Behavior Models(LBM)で、拡散モデルベース。MIT・コロンビア大学と共同開発しています。

狙いは明確です。約18,000人の「匠」の暗黙知を、退職前に取り込むこと。作業者がロボットの手を模したジグを装着して作業し、ロボットは視覚観察で学習するという方式です。トヨタ自身が課題として、長時間稼働の信頼性、エンドエフェクタの位置再現性、グローバルなデータ基盤を挙げています。

日立は2026年9月のイベントで徳永俊昭CEOが「2026年はフィジカルAI元年」と宣言しました。同社の整理は明快です。フィジカルAIを4段階に分け、①実世界の物理を学ぶ ②デジタルツインで実験はNVIDIAが担い、③ドメイン固有ルールの習得 ④現場実装は日立がIT80年・OT116年の蓄積で担う、という役割分担論です。同社CIセクターは2026年6月に「売上高すべてをフィジカルAI事業へ」という方針を掲げています。

ソニーは2026年4月、ソニーAIの「Project ACE」がNature誌の表紙を飾りました。卓球でプロ・エリート選手に自律ロボットが勝利した成果で、450rad/sのスピンに対し75%のリターン率を達成しています。同社セミコンダクタソリューションズのイベントベースビジョンセンサーを使った点が特徴です。田中健二社長は2026年6月に「フィジカルAIなら強みを出せる、勝負のカギは現場感」と述べています。

さらに2026年7月16日、富士通・ファナック・安川電機・川崎重工の4社が、NVIDIAの協力を得てフィジカルAIの社会実装に向けた事業検討開始で合意しました。NVIDIAのCosmos、Omniverse、Isaac、Newtonを採用し、富士通側は生成AI「Takane」とROS 2で対応します。ロードマップは未公表です。

そしてMujinは「世界初のAIネイティブOS」を謳うMujinOSを世界2,000社以上に導入し、2025年12月にNTTグループとカタール投資庁をリードとするシリーズDで364億円を調達(累計596億円)、2026年6月にはIPO準備が報じられています。

データ獲得の打ち手:日本は「共有プール型」

フィジカルAIで決定的になるのは、実世界の動作データです。ここで日本が採った戦略は、米中とは対照的です。

一般社団法人AIロボット協会(AIRoA)は2026年7月31日、データセットと基盤モデルを一般公開しました。

  • AIRoA MoMa 5k:約5,000時間・68タスクのデータセット
  • pi05_hsr_base:オープンソースVLAのπ0.5を継続事前学習した基盤モデル

代表理事は早稲田大学の尾形哲也教授、理事に松尾豊教授らが名を連ね、会員にはトヨタ、日産、NEC、富士通、KDDI、三菱電機、松尾研究所などが参加しています。米中の囲い込み型に対し、オープン共有を差別化軸に置いているのが特徴です。

さらに2026年9月16〜17日には、AIRoAが国産汎用ロボット試作機のコンペティションを開催しました。THK、ugo、ナチ(不二越)、Keigan、Enactic、Emplifi、HatsuMuvの7社が双腕移動マニピュレータを競作。賞金ではなく「AIRoAのデータ収集機として採用されること」が賞という設計です。目的は明示的に中国製ハードウェアへの依存低減とされています。

フィジカルAIの弱み

期待だけを書くと判断を誤るので、指摘されている弱点も挙げます。

PwCの分析は、日本の弱みとして海外の半導体・AIモデルエコシステムへの依存、データドリブンな最適化そのものが競合比で弱いこと、資金流入の不足、基盤モデルのエコシステムの薄さ、プレイヤー密度の低さ、そして事業化の出遅れを挙げています。

米中との構図の違いも指摘されています。米国型は計算資源・データ・モデルを巨大テックが統合し、中国型は政府主導で量産と実装を進め、実稼働データを大量に収集する。これに対し日本は、汎用を追わずミッションクリティカル領域の特定タスク最適化で既存の統合力を活かすべきだという提言です。

そして時間の問題があります。Noetraの計算基盤は稼働が2028年6月です。2026年から2028年までは計算資源のギャップ期間になります。AIRoAのコンペの目的が「中国製ハードへの依存低減」であること自体、ハード面での現状認識を示しています。

なお特許分析では、フィジカルAI分野で日本は4位という報道があります(件数・分析機関は未確認)。ロボティクスを「お家芸」と呼べる状況ではないという指摘です。

識者はどう見ているか:松尾豊と今井翔太

最後に、この分野で最も参照される2人の見立てを整理します。

松尾豊教授:勝ち筋はバーティカルAIとフィジカルAI

東京大学の松尾豊教授は、日本ディープラーニング協会の2026年年頭所感で、2025年を振り返ってこう述べています。

フィジカルAIが大きく進展し、各国から象徴的なデモや事例が多く示されました

そして「ロボット基盤モデル、あるいはVLAと呼ばれるAIの技術をロボットに適用するもの」の実装が本格化していると位置づけています。

日本の勝機については、2026年4月の取材で①バーティカルAI(金融・医療・製造・教育)②フィジカルAI(産業用ロボット)の2方向を挙げています。AGIについては「結局のところAGIは遅かれ早かれ普及する。人間ができることはすべてAGIによってできるようになる」と述べています。

人材については、年頭所感で「『AIを作る』人材に加えて、もっと多くの『AIを使いこなす』人材が必要」と指摘しています。この主張は数字にも表れており、日本の個人の生成AI利用率は26.7%(2025年)で、中国81.2%、米国68.8%、ドイツ59.2%に大きく後れを取っています。

なお松尾研究室からは48社のスタートアップが生まれており(ELYZA、PKSHA Technology、Gunosy、DeepX、燈、Almondo、neoAI、Elithなど)、うち2社がIPO、3社がM&A、合計時価総額20億ドル超とされています。松尾教授は「年間100社のスタートアップが研究室から誕生して欲しい」と述べています。

株式会社松尾研究所も注力領域にPhysical AIを明示し、2026年4月にはAWSジャパンのフィジカルAI開発支援プログラムに採択されています。同社副社長の金剛洙氏は、DeepSeek-R1について「ほとんど全ての人間を超える学力を有していることは疑いようがない」と評し、「投資はフィジカルAIに集中、データ収集が鍵になる」との見解を示しています。

今井翔太氏:生成AIの次を語る

もう1人、松尾研究室出身で発信量が多いのが今井翔太氏です。

肩書きについて先に整理しておきます。媒体では「東京大学松尾研究室」「AI研究者」と表記されることが多いのですが、2026年時点の正確な肩書きは、株式会社GenesisAI 代表取締役社長/CEO、北陸先端科学技術大学院大学(JAIST)客員教授です。2024年に松尾研究室で博士(工学)を取得し、同年GenesisAIを創業、2025年からJAIST客員教授を務めています。

専門は強化学習です。より具体的には、マルチエージェント強化学習と、生成AIにおける強化学習の活用研究。本人はChatGPT登場時を振り返って「元々は『強化学習』の専門家」だったが「20秒後には世界が一変したと理解し、そこから一気に自分自身を変えていった」と述べています。世界モデルやフィジカルAIの専門家ではない点は、記事で扱う際に混同しないよう注意が必要です。

著書『生成AIで世界はこう変わる』(SB新書、2024年1月)はベストセラーになりました。

主張の要点

  • 生成AIの民主化:DeepSeekについて「10億円もあれば誰でもDeepSeek並みの大規模言語モデルを作れることが分かってしまった」と指摘。従来200億円規模と見られていた開発費の前提が崩れたという見方です
  • AGIの時期:AIリーダーたちの予測は「平均すると2030年」
  • 予測の困難さ:文科省に提出した「5年以内に実現しそうな予想」が提出1か月後に覆されたと明かし、「5年先の世界がどうなっているかなんて、まったく分かりません」と述べています
  • 専門職への影響:金融アナリストについて「2024年5月の論文で決着がついている」「金融アナリストたちは、すでに生成AIに負けていた」
  • 差別化の考え方:「世界的なゲーマーかつAIの専門家の日本人なんて、世界80億人のなかでも私1人しかいないでしょう」──掛け算でオンリーワンを作るという発想です

生成AIの次に来るものについては、テスト時計算(推論時スケーリング)の活用、動画生成AIによる言語・画像タスクの統合、マルチモーダル統合を挙げています。「学習は限界に達し、長く考えることで性能を伸ばす段階に入った」という見立てです。

国産AIについては、2026年7月の日経新聞で「日本企業は開発の要衝掌握、利益は大きい」という見出しの記事が出ています。また国産フィジカルAI計画については「不可能じゃない」と述べたとされます。

ただしここは正直に書いておきます。これらは見出しや動画タイトルに掲げられた発言であり、本文の文脈は確認できていません。「フルスタックの自前化より、サプライチェーンの要衝を押さえるほうが日本の利益は大きい」という立場と読めますが、これは推測です。引用する際は一次ソースで裏を取ってください。

自社で使うならどう判断するか:国産AI採用の5つのチェックポイント

国産AI採用時の5つのチェックポイント

ここまでの事実を、自社の意思決定に使える形に置き換えます。政府の選定で重視されたのは、機密を扱えるセキュリティ、日本語や日本の文書様式への適合、そして第三者が確認できる形の評価結果でした。この3点は民間でもそのまま流用できます。

採用判断の5つのチェックポイント

  • データ主権:入力データの保存先と学習利用の有無を契約書面で確認します。国内リージョン完結が要件になる業務があるかを先に洗い出してください。前述のさくらインターネット田中社長の指摘通り、データが国内にあっても学習に使われれば意味がありません
  • 日本語精度:敬語、社内規程、申請書や稟議書のような定型文書で崩れないか。汎用ベンチマークではなく自社文書で見ます
  • コスト:推論単価だけでなく、検証工数、社内周知、監査対応まで含めた総額で比較します。ただし国産モデルの単価優位(事例では約12分の1)は実在するので、ここは有利に働く可能性があります
  • 更新体制:モデル更新の頻度と、更新時に既存プロンプトが動くかの互換性方針を事前に聞きます
  • 検証可能性:評価の手順と結果を社内の第三者が再現できるか。ベンダー提示の数値をそのまま信じないことです。特に「GPT-4o超え」という表現は、2026年のフロンティアモデルとの比較ではない可能性が高いので、比較対象のモデル名と時期を必ず確認してください

用途別の振り分け方針

全社一律で一つに決める必要はありません。実務では、個人情報や未公開情報を含む業務は国内完結の構成を優先し、公開情報を扱う高難度の要約や多言語処理は海外モデルも候補に入れる、という分け方が現実的です。政府基盤でも複数モデルが併存しています。

判断に迷う場合は、扱うデータの機密区分を先に決め、そこからモデルを割り当てる順序にすると設計がぶれません。

評価テストの組み方と失敗パターン

自社データ50〜100件程度の実タスクを用意し、同じ入力を複数モデルに流して人が採点する形が基本です。よくある失敗は次の4つです。

  • デモ用の綺麗な質問だけで評価する
  • 採点者が1人で基準が言語化されていない
  • 一度きりの比較で終わり、更新後に再測定しない
  • 精度だけ見て運用コストと権限管理を後回しにする

評価シートは残し、モデル更新のたびに回せる状態にしておくと判断が積み上がります。

追うべき情報源

2026年後半以降に向けては、次の4つを定点観測するのが効率的です。

  • 経済産業省のGENIACで公開される採択事業者の報告内容
  • 行政向けAI基盤の調達動向(2027年度の有償調達、2026年11月予定の追加公募)
  • AIRoAが公開するデータセットと基盤モデル(オープン共有されるため自社検証に使えます)
  • Noetra/FRONTiaのロードマップ進捗(2028年の計算基盤稼働が節目)

有償調達の判断は今後進む流れとされており、条件はその時点の要件で変わるため、個別の確認が必要です。

まとめ

  • 「国産AI」の多くは海外オープンウェイトを土台にした追加学習。フルスクラッチを明言しているのはPreferred NetworksとSB Intuitionsに限られます
  • 汎用性能では勝てていません。Nejumi Leaderboard 4のトップ50に国産モデルはゼロ、LMArenaにも不掲載。計算資源は世界比でオーダー30分の1、民間投資は米国の約121分の1(年間)
  • 政府自身が人工知能基本計画で「主要国はもちろん経済規模が小さい国にも後塵を拝する」と明記しています
  • 勝てているのは①日本語・日本文化特化ベンチマーク ②行政・規制・データ主権という非性能要件 ③コスト(約12分の1の事例)の3点
  • ただし「専門領域に特化すれば海外汎用モデルを超える」は一次データでは支持されていません。医療特化で90.8%に対し商用は91.4〜93.3%。迫るが上回りません
  • 国産AI企業の当事者自身が「完全国産化は不可能で合理的でもない」と述べています。論点は「各レイヤーで誰が主権を握るか」の選択です
  • フィジカルAIは日本が置いた最大の賭け。2040年に20兆円市場の獲得を目標に、FRONTia/Noetraへ総額1兆円規模の支援。トヨタは40万台・年1兆円投資、日立は「2026年はフィジカルAI元年」と宣言
  • データ戦略は米中の囲い込み型に対し日本は共有プール型。AIRoAが5,000時間・68タスクのデータセットを一般公開しています
  • 弱点は計算資源のギャップ期間(2026〜2028年)、ハードの対中依存、事業化の出遅れ

狙うべきは生成AIの汎用市場ではなく、セグメントを切った先の市場──この見立ては一次データに照らして妥当です。ただしそのセグメントは「専門分野の性能」ではなく「日本語」「規制」「コスト」という条件の掛け算で切り出されます。そしてフィジカルAIは、その掛け算に「現場の暗黙知」と「産業用ロボットの基盤」という日本固有の要素を加えた賭けだと理解するのが正確です。

SEO無料相談はこちら

【主な出典】人工知能基本計画(2025年12月23日閣議決定)/AIロボティクス戦略(2026年3月26日)/経済産業省GENIAC第4期採択発表(2026年6月4日)・FRONTia実施者公表(2026年6月30日)/デジタル庁ガバメントAI国産LLM公募結果(2026年3月6日)/各社公式プレスリリース(Sakana AI、Preferred Networks、楽天、SB Intuitions、NTT、富士通、NEC、リコー、ELYZA、Stockmark、Turing、トヨタ、日立、ソニー、Mujin、AIRoA等)/日本ディープラーニング協会2026年年頭所感/Stanford HAI AI Index/Nejumi Leaderboard 4集計(2026年9月1日時点の二次分析)/NVIDIA公式用語集/PwC Japan技術動向レポート。
本記事は2026年9月30日時点の情報にもとづきます。金額・件数の一部は報道ベースの二次情報であり、本文中に出所の区分を明記しています。仕様・政策は変更される場合があるため、最新情報は各公式発表をご確認ください。