はじめに
2025年7月23日、東京高裁でグーグルマップの口コミ削除を命じる画期的な判決が下されました。甲府市の歯科医院がGoogleに対して起こした口コミ削除訴訟で、一審では敗訴したものの、高裁では「口コミの内容が真実でない」として削除が認められました。この事例は、デジタル時代における口コミ削除の法的基準を示す重要な判例となっています。
参照URL:https://www.yomiuri.co.jp/national/20250723-OYT1T50159/
本記事では、この判決の詳細分析とともに、口コミ削除に必要な条件、削除が困難なケース、そして飲食店・病院・美容室・介護施設別の具体的な対策法について、法的根拠に基づいて解説します。
東京高裁口コミ削除訴訟の詳細
事件の概要
争点となった口コミ内容:
- 「十分な説明、検査なしに、銀歯を取り歯を削ろうとする歯医者に驚いた」
- その他類似の2件の投稿
判決のポイント:
- 一審(東京地裁):「投稿者の主観的な不満で、社会的評価を低下させるものではない」として請求棄却
- 二審(東京高裁・古谷恭一郎裁判長):「真実でない」として削除命令
法的意義: この判決は、Googleマップ上の医療機関への口コミに対する削除基準を明確化し、「真実性」が削除判断の重要な基準となることを示しました。
口コミ削除に必要な3つの基本条件
1. 名誉毀損の成立要件
口コミが削除されるためには、以下の条件を満たす必要があります:
必須条件:
- 公然性:多くの人が閲覧可能な場での投稿(ネット上は基本的に該当)
- 事実の摘示:具体的な事実を示している内容
- 社会的評価の低下:対象者の社会的信用を損なう内容
重要な注意点: 内容が真実であっても名誉毀損は成立します。ただし、以下の場合は例外的に正当化されます:
2. 削除が困難になる3つの例外
公共性・公益性・真実性の原則:
- 公共性:公的な利害に関わる事柄
- 公益性:社会全体の利益を目的とした投稿
- 真実性:投稿内容が事実である、または真実と信じる相当な理由がある
3. その他の法的根拠
名誉毀損以外で削除可能なケース:
- 侮辱罪:具体的事実を示さない単純な悪口(1年以下の懲役・30万円以下の罰金)
- 信用毀損罪:虚偽情報による信用失墜(3年以下の懲役・50万円以下の罰金)
- 業務妨害罪:営業活動への悪影響(3年以下の懲役・50万円以下の罰金)
削除が困難な口コミの特徴と理由
削除困難なケース
- 純粋な感想・意見
- 「料理が美味しくない」「接客が悪い」
- 理由:具体的事実の摘示がない主観的感想
- 星評価のみ
- 星1つだけの評価コメントなし
- 理由:具体性に欠け、法的違法性の立証が困難
- 真実性のある批判
- 事実に基づく正当な批判
- 理由:公益性が認められる可能性
プラットフォーム固有の削除困難性
ホットペッパービューティーの例:
- サロン側・投稿者側ともに削除権限なし
- 運営側の審査通過済み投稿は削除が極めて困難
- 約2年で自動削除されるまで残存
業種別ネガティブ口コミ対策ガイド
飲食店の場合
削除可能な口コミ例:
❌ 「料理にゴキブリの足が入っていた」
❌ 「注文時と精算時で価格が異なる詐欺行為」
❌ 「食品偽装をしている店」
削除困難な口コミ例:
⚠️ 「料理が美味しくない」
⚠️ 「店員の態度が悪い」
⚠️ 「価格が高い」
対策方法:
- 即座の削除申請:Googleビジネスプロフィールから「不適切なクチコミとして報告」
- 法的措置の検討:虚偽事実による営業妨害の場合
- 積極的な返信対応:真摯な対応で印象改善
病院・医療機関の場合
削除可能な口コミ例:
❌ 「この病院では必要な検査をせずいい加減な診断をしている」
❌ 「代表医は医療ミスを繰り返している」
❌ 「誤診をされた。藪医者だと思う」
削除困難な口コミ例:
⚠️ 「待ち時間が長い」
⚠️ 「先生の説明が足りない」
⚠️ 「受付の対応が冷たい」
特殊な考慮事項:
- 医療機関は専門性が高く、虚偽の医療情報は社会的影響大
- 「医療ミス」「誤診」等の指摘は事実確認が重要
- 患者の主観的不満と医学的事実の区別が必要
美容室・サロンの場合
削除可能な口コミ例:
❌ 「無理やり高級シャンプーを売りつけてくる悪徳美容院」
❌ 「美容師が無断で体を触ってくるセクハラ美容院」
❌ 「カラー剤で頭皮に火傷を負わせる危険な店」
削除困難な口コミ例:
⚠️ 「カットが下手」
⚠️ 「思った通りの仕上がりにならない」
⚠️ 「スタッフの技術力不足」
ホットペッパービューティー特有の問題:
- 削除フォームが存在しない
- 任意削除依頼を受け付けない方針
- 法的手続きでも削除が困難な場合が多い
介護施設の場合
削除可能な口コミ例:
❌ 「スタッフが利用者を虐待している」
❌ 「食事に異物が混入している不衛生な施設」
❌ 「認知症患者から金品を盗んでいる」
削除困難な口コミ例:
⚠️ 「スタッフの対応が冷たい」
⚠️ 「食事の質が良くない」
⚠️ 「施設が古い」
特別な注意点:
- 高齢者や家族の感情的な不満が多い
- 介護の専門性に関する誤解から生じる批判
- 深刻な指摘(虐待等)は事実確認と迅速な対応が必要
口コミ削除の具体的手順
1. プラットフォーム別削除申請方法
Googleマップ・ビジネスプロフィール:
- ビジネスプロフィールマネージャーにログイン
- メニューから「クチコミ」選択
- 該当口コミで「不適切なクチコミとして報告」
- 違反理由を選択して送信
対応期間: 通常1-2週間
2. 法的手続きによる削除
仮処分申立ての流れ:
- 権利侵害の立証:名誉毀損等の法的根拠の明確化
- 緊急性の証明:営業への悪影響の具体的証拠
- 裁判所への申立:削除仮処分の申請
- 決定:通常1-2ヶ月で判断
費用相場:
- 着手金:20万円前後
- 報酬金:15万円前後
- 実費:5-10万円
3. 発信者情報開示請求
投稿者特定の手順:
- サイト運営者への開示請求:IPアドレス・タイムスタンプ取得
- プロバイダ特定:IPアドレスから接続業者を調査
- プロバイダへの開示請求:契約者情報の開示要求
- 投稿者特定完了:住所・氏名等の個人情報取得
所要期間: 6-10ヶ月 費用相場: 60-80万円
削除困難な場合の代替対策
1. 積極的な返信対応
効果的な返信例:
○○様、この度は貴重なご意見をいただき、ありがとうございます。
ご指摘いただいた点につきまして、スタッフ一同で改善に努めて参ります。
今後ともより良いサービス提供に努めますので、
機会がございましたら再度ご利用いただけますと幸いです。
2. 高評価口コミの増加戦略
自然な高評価獲得方法:
- サービス品質の根本的改善
- 満足顧客への口コミ投稿依頼(適正な範囲内)
- アフターフォローの充実
3. SEO対策による希釈化
検索結果改善策:
- 公式サイトの上位表示対策
- ポジティブなプレスリリース配信
- ソーシャルメディアでの情報発信強化
弁護士費用と期間の目安
削除依頼代行
手続き内容 | 着手金 | 報酬金 |
---|---|---|
サイトへの削除依頼 | 5-10万円 | 5-10万円 |
仮処分申立 | 約20万円 | 約15万円 |
発信者特定・損害賠償請求
手続き内容 | 費用相場 | 期間 |
---|---|---|
発信者情報開示 | 60-80万円 | 6-10ヶ月 |
損害賠償請求 | 20-50万円 | 6-12ヶ月 |
損害賠償金の相場
被害内容 | 個人 | 法人・事業者 |
---|---|---|
名誉毀損 | 10-50万円 | 50-100万円 |
侮辱 | 1-10万円 | 10-50万円 |
信用毀損・業務妨害 | 1-50万円 | 50-100万円 |
まとめ:効果的な口コミ対策のポイント
迅速な初動対応の重要性
- 早期発見:定期的な口コミモニタリング
- 速やかな削除申請:発見から24時間以内の対応
- 法的検討:弁護士への相談タイミングの見極め
予防策の実施
- サービス品質向上:根本的な問題解決
- スタッフ教育:顧客対応の標準化
- 積極的コミュニケーション:顧客との関係構築
長期的視点での対応
インターネット上の風評は一度拡散すると完全な削除は困難です。そのため、継続的な信頼回復努力と、新しいポジティブな情報発信による「希釈化」戦略が重要となります。
法的措置は最後の手段として位置づけ、まずは顧客満足度向上とコミュニケーション改善による根本的解決を目指すことが、持続可能なレピュテーション管理の基本原則です。